現代のカメラは優秀だ。 私の愛機 Canon EOS R5 も、4500万画素という圧倒的な解像度と、正確無比な色再現性を誇る。 だが、その「正しさ」だけでは面白みに欠けることがある。
そんな時、私はマウントアダプターを介して、あえてこのレンズを装着する。 Carl Zeiss Jena Pancolar 50mm f1.8。 東西冷戦時代の東ドイツで作られた、古き良き「癖玉」だ。
今回は、このレンズが持つ強烈な個性、すなわち「低解像」「周辺減光」「黄変」を、Canon EOS R5という最新ボディでただ楽しむ。 難しいことは考えず、一切の編集を加えない「JPEG撮って出し」で三浦の景色を切り取ってみた。
撮影環境と設定
レンズの素性をありのままに楽しむため、以下の設定で撮影を行った。
■ 使用機材 ・ レンズ:Carl Zeiss Jena Pancolar 50mm f1.8(M42マウント初期型) ・ ボディ:Canon EOS R5 ・ マウントアダプター:K&F Concept M42-EOS R
■ カメラ設定 ・ 記録形式:JPEG(L) ・ ホワイトバランス:オート(AWB) ・ ピクチャースタイル:ニュートラル ・ 編集:なし(RAW現像なし、トリミングなし)
ピクチャースタイルを「ニュートラル」に設定したのは、カメラ内でのコントラストや彩度の強調を避け、レンズ本来の「味」をそのまま残したいからだ。
放射能を持つガラス? 「アトムレンズ」の正体
このPancolar 50mm f1.8(初期型)には、通称「アトムレンズ(放射能レンズ)」という異名がある。
レンズの屈折率を上げるために、硝材に放射性物質である「トリウム」が混ぜられている。正式にはトリウムレンズと呼ばれるものだ。 経年劣化によりレンズ自体が茶褐色に黄変(ブラウニング)するのが最大の特徴である。
現代のレンズなら、間違いなく不良品扱いだろう。 だが、この「消せない物理フィルター」こそが、このレンズを使う最大の理由となる。
開放f1.8の描写:解像度を捨てて「味」を拾う
R5の高画素センサーで撮ると、このレンズの粗が残酷なまでに露呈する。だが、それを楽しむのがオールドレンズ遊びだ。
解像感は低い
ピント面ですら、現代のレンズのようなカリカリな描写はしない。 全体的に線が太く、柔らかい。ピクチャースタイルをニュートラルにしているため、その傾向はより顕著だ。 拡大して見れば甘いかもしれないが、引いて見た時の絵画的な質感は、最新レンズには出せない。
開放での周辺光量落ち
絞り開放(f1.8)では、四隅が暗く落ちる。 周辺減光(ヴィネット)だ。 これもあえて補正せず、そのまま残す。トンネル効果のように視線を中心に誘導し、何気ない風景をドラマチックにしてくれる。
作例:黄ばみこそがノスタルジー
ホワイトバランスはオート(AWB)に設定している。 通常、R5の優秀なAWBは色被りを補正しようと働くが、このレンズの黄変は強力だ。 補正しきれないのか、あるいはカメラが「これが正解」と判断したのか、独特の黄色いトーンが写真に残る。






どうだろうか。 これが編集なし、JPEG撮って出しの色だ。 全体に広がるアンバー(琥珀色)がかったトーン。 冷たい冬の空気の中に、どこか懐かしい体温のようなものが混じる。 ピクチャースタイル「ニュートラル」の低い彩度と相まって、まるで古い映画のワンシーンのような静けさが漂う。
「写りが悪い」のではない。この不完全さこそが、このレンズの持ち味なのだ。
まとめ:不便を楽しむ週末
Carl Zeiss Jena Pancolar 50mm f1.8 × Canon EOS R5。 最新鋭の高画素ボディに、半世紀前のトリウムレンズ。 解像度競争とは無縁の場所にあるこの組み合わせは、撮り手に「画質とは何か」を問いかけてくる。
不便さを愛せる余裕があるなら、このレンズは最高の相棒になるだろう。
【今回の機材】
・ Canon EOS R5:現在のメイン機。オールドレンズの母艦としても優秀。
・ K&F Concept マウントアダプター:M42レンズをRシステムで使うための必須アイテム。精度も剛性も申し分ない。
撮影後記
この撮影の直前、近くの定食屋で食事をした。 そこではPancolarではなく、機動力を重視してiPhoneを使用した。 レンズの味ではなく、純粋に「魚の味」を記録した記事は、以下にまとめている。
👉 [記事リンク] 【三浦海岸】漁火亭:シャツの暖簾をくぐり、魚尽くしのタッグマッチ(iPhone撮影記)